米IT業界、議会の疎さにため息 規制の行方に不安

 米議会が フェイスブックマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)にあらゆる質問を浴びせ終えた後、シリコンバレー関係者は議会に対し、1つの疑問を抱いていた。どうしてわれわれのことを理解してくれないのか?

 2500マイル(約4020キロメートル)離れたシリコンバレーから長時間に及ぶザッカーバーグ氏の議会証言を見ていたハイテク関係者の一部は、議員の質問にあきれたと話す。そして、インターネットに対する議員の理解が欠如していることで、過度に負担の重い、または不適切な規制が策定されるのではないかと懸念している。

 ブライアン・シャッツ上院議員(民主、ハワイ州)は、フェイスブックの対話アプリ「ワッツアップ」を電子メールと間違えた。ロジャー・ウィッカー上院議員(共和、ミシシッピ州)はザッカーバーグ氏がインターネット接続業者をネットの「パイプ」と表現した際、それは何のことか詳しい説明を求めた。シェリー・ムーア・カピト上院議員(共和、ウエスバージニア州)は、フェイスブックは自分の地元であるウエスバージニア州に「ファイバー」を提供することはできるかと質問した。フェイスブックはそんなサービスは行っていない。

 PR会社アールスクエアード・コミュニケーションのレベッカ・リーブCEOは「われわれの企業や商品について政策担当者や市民に理解してもらうのに、シリコンバレーがどれだけ努力しなければならないか、あらためて思い知らされた」と語る。同社はメッセージアプリのスラック・テクノロジーズなど、新興企業のPRを担当する。

 

 政府当局者とハイテク業界は、これまで上手く意思疎通を図ってこなかった長い歴史がある。だが、政府が監視を強化する構えを見せる中で、市民の理解を深め、共通の言葉を見い出すよう迫る圧力は増している。11日も行われるザッカーバーグ氏の議会証言は、フェイスブックだけの問題でなく、ハイテク業界全体に対する尋問の場でもある。

 10日の議会証言では、ジョン・スーン上院議員(共和、サウスダコタ州)とチャック・グラスリー上院議員(共和、アイオワ州)はいずれも、ハイテク業界のプラットフォームに対する連邦政府の介入が必要になるとの考えを示した。ジョン・ケネディ上院議員(共和、ルイジアナ州)は「フェイスブックを規制しなければならない法案を支持したくないが、絶対にそうするだろう」と述べた。

 中古車売買サイト、シフト・テクノロジーの創業者、ジョージ・アリソン氏は、規制強化の機運が高まっていることに不安を抱いている。「大半の議員はハイテク業界が実際に何をしているのか全く理解していない」とし、「これは極めて危険な状況だ」と指摘する。

  ベンチャー企業ヒロイック・ベンチャーズとプライバシー管理企業レピュテーション・ドット・コムの創業者であるマイケル・ファーティック氏は、議員がフェイスブックに対し、厳しく追及していない点を懸念していると語る。改革の機は熟し切っているものの、議員が下手に策定した規則が若い新興企業に打撃を与えるのではないか心配だとし、「議会は新興企業がフェイスブックに対抗するのを困難にするだろう」と話す。

 ザッカーバーグ氏は、倍以上も年上の上院議員からの質問にも、概ね落ち着いた様子で答えた。だがフェイスブックの事業について繰り返し説明しなければならず、時にいらついたような様子も見受けられた。ケネディ上院議員が、フェイスブックは利用者に対し一定のデータ管理を認めているのかと尋ねた場面では、ザッカーバーグ氏は、フェイスブックはすでに行っていると7回も答えなくてはならなかった。

 ゲリー・ピーターズ上院議員(民主、ミシガン州)が、フェイスブックはユーザーの携帯電話のマイクを使って、言動を把握しているとのかと質問した際には、「陰謀説についておっしゃっていますね。われわれはそうしたことは一切行っていない」と明言した。フェイスブックはここ最近、こうした見方を繰り返し否定している。

 市場では、ザッカーバーグ氏の議会証言を概ね評価する動きが広がり、フェイスブック株は4.5%上昇した。

 フェイスブック株を長らく保有するグリーンブライヤー・パートナーズ・キャピタルのゼネラルパートナー、シャッド・ロウ氏は、ザッカーバーグ氏の証言は「完璧なホームラン」と指摘する。ザッカーバーグ氏は辛抱強く、落ち着いた態度で「会話の主導権を完全に握っていた」という。

 ロウ氏はケンブリッジ・アナリティカのスキャンダルが発覚した2週間前、同社の投資家に宛てた書簡で、フェイスブックのデータの取り扱いを批判していた。だがザッカーバーグ氏の証言で株式保有を続けるつもりになったという。そしてこう加えた。「株は手放したくない。負けると見込むには、ザックは難しい相手だ。彼は常に乗り越えている」