「TCC賞で考えた、広告の機能とポエム化」

広告の果たす機能とは何か、そして、いま話題のポエム化がここでも進んでいるのではないか。いや、さらに言うと、イマドキ、広告に意味なんてあるのか。そんなことを、TCC賞の結果から考えてしまった(なお、TCCとは、東京コピーライターズクラブの略)。

先日、TCC賞が発表された。PR TIMESの4月30日のエントリーによると、 この賞は一般部門6,446点(グラフィック4,186点、テレビCM/WEB映像1,770点、ラジオCM379点、WEB広告111点)の中から選ば れたのだという。TCCグランプリ1点とTCC賞11点、審査委員長賞2点が決定した。また、次世代を担うコピーライターの登竜門と言われる新人部門で は、426名の中から、最高新人賞1名と新人賞20名が選ばれた。

受賞作品はこの、東京コピーライターズクラブのエントリーをご覧頂きたいTCCグランプリに選ばれた、ソフトバンクモバイルの「バカは強いですよ、お利口さんより、ずっと。」(澤本嘉光氏/電通)を始めとする作品の一覧をここで見ることができるので、まずはクリックして頂きたい。

広告に関しては、私はほぼ素人だと言っていい。とはいえ、それなりに広告のことはずっと気になっていた。就活の時は広告代理店を受けていたし、20 代前半~半ばの頃は、「この泥臭い職場を少しでも速く抜けだして、いつかは広告業界のような“クリエイティブ”な業界で働きたい」と夢見ていた。そのため の勉強と称して、当時、マドラ出版から出ていた『広告批評』を愛読していた。リクルート時代は『とらばーゆ』や『じゃらん』などの部署にいて、求人広告や 情報広告に関わりがあったし、玩具メーカーで採用担当者をしていた頃も、人材コンサルタントとなった今も求人広告に関わっている。マス広告、ウェブ広告に は詳しくないものの、広告とはそれなりに関わりつつ、生きてきた。まあ、プロではないのだけど。

ほぼ素人の領空侵犯として読んで頂きたいのだが・・・。今回のTCC賞の受賞作を見て、思うことを述べることにしよう。

まず、知っている広告がほぼ無かったことだ。全35作品のうち、知っていたのは東日本旅客鉄道「JR Ski Ski」の「ぜんぶ雪のせいだ。」と、「北斗の拳30周年」の「エラそうに新聞なんて読みやがって!!」の2つだけだった。前者を知っていた理由は、なん せ駅でよく見かけたからであり、春の大雪の際に、みんながこの言葉をつぶやいていたからだった。後者は、ネットで話題になったからである。それにしても、 『北斗の拳』をテーマにしつつも、敵の雑魚キャラに振り切った広告はインパクトがある。最初からネットで拡散することを計算していたのではないかとすら思 えてくる。

では、なぜ、それ以外の広告を知らなかったのだろうか。それは、私がBlu-rayレコーダーに録画してテレビ番組を観ているからだろう。毎週録画 している番組+キーワード録画で週に10本強くらいは録画し、面白そうなもののみ数本観ている。他にも家で家族がテレビをかけていたりするのだが、CMは ほぼ気にとめなくなった。CMを観る機会がそもそも減っているし、気になるCMがないということなのだろうか。いや、幼い頃は、CMもコンテンツの一つく らいの勢いでしっかり観ていた方なのだが。単に年齢を重ねたからなのだろうか。CMを観る機会がそもそも減っているし、気になるCMがなくなったという。

ところで、このTCC賞を伝える何本かのエントリーに対しては、「で、売れたのか?」という反応もネット上ではよく見受けられた。「売れたのか」は ナイスなツッコミだが、さらに言うならば「機能したか」ということが問われるだろう。「広告」に「販売を促進する」機能があることはもちろんだが、機能は それだけではない。企業の知名度を上げる、企業の姿勢を伝えるなどの機能もあるからだ。

ただ、この「機能する」という観点から言うと、どうだろうか。皆がそのCMを観ているか、知っているかというそもそも論はあるものの、とはいえ、機能を果たしているのか疑問に思ってしまった。

特にそれを感じてしまったのが、新人賞のコピーたちだ。率直に、ポエムのようで何を言っているかどうか分からないものも見受けられた。例えば、次のコピーなどである。

【久保馨】

「お客様を待つ姿も、景観の一部になっている。」

MKタクシー/Web広告)

【佐久間英彰】

「ネットの会社って聞いてたけど、こっちでしたか。」

(タキロン/ポスター)

いや、新人賞以外でも・・・

【小山佳奈】

「女子じゃない。女や。」

エイベックス・エンタテインメント「dビデオ」/TVCM)

【福里真一】

「この惑星には、愛されるという勝ち方もある。」

サントリーホールディングス「BOSS」/TVCM)

【岩田純平】

「それでも、前を向く。」

日本たばこ産業「ROOTS」/ポスター他)

などにはポエムっぽい臭いを感じてしまった。

もちろん、これは映像、画像と合わせてみると印象が違うのだろう。説明的すぎるコピーが良いわけがない。とはいえ、その言葉は機能しているのか、疑問に思ってしまった。

いま、話題といえば、ポエム化だ。もともとは、コラムニスト小田嶋隆氏が『ポエムに万歳!』(新潮社)で提唱したコンセプトだ。ポエムのように、ふ わふわした言葉が世の中に広がっていないか、と。よく話題になるのは、マンションポエムだ。マンションの広告がやたらと「天地創造」「叡智の杜」など、大 げさな表現、ふわふわしていて分からない表現がいっぱいなのではないかと。もう一つは労働ポエムだ。相田みつを風のスローガンが職場に掲示されたり、それ を読み上げてモチベーションをあげたり・・・。

言ってみれば、これは、差異を作りにくい中での苦肉の策だったり、やはり楽とはいえない職場でモチベーションを上げるための工夫だったりするわけだが。これが、大手企業に対して、大手広告代理店が提案するマス広告でもはびこっていないかと思った次第である。

ポエム化というのは、広告に関しては大きく3つの理由からきていると考えている。一つは、単純に広告の作り手が下手になっていないかという問題、も う一つは逆で、商品の差異、圧倒的な価値の差をつけにくくなっている中、ゆるふわなコピーでそれをごまかさなければならなくなっているため、さらに生活者 がそのような表現を求めているため、この3つではないかと。

とはいえ、TCC賞を受賞する作品にまでポエム化の流れを感じるということは、我が国の広告、もっというと消費社会そのものが劣化していないかと感じる次第である。

さて、10年後のTCC賞はどんな作品が受賞しているのだろうか。いや、そんなものわかるわけがないのだが。広告は、もっと言うと、その頃日本語は、ちゃんと美しく、機能しているのだろうか。傍観することにしよう。

【プロフィール】常見陽平(つねみようへい) 評論家・コラムニスト
北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。リクルート、玩具メーカー、コンサルティング会社を経てフリーに。
雇用・労働、キャリア、若者論などをテーマに執筆、講演に没頭中。