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【イチローの真実】(上)肉体の衰えをフォームでカバー

興味深い記事だったので、保存用としてここにコピーしておきます。

マリナーズのイチローが、張本勲氏の持つ通算安打のプロ野球記録を超える3086本目の安打を放った。日米通算18年目の快挙を支えた技術的な進化と「天才」の脳の働きを探った。(田中充、小川寛太)

イチロー選手の打撃フォームは、大きく分けて2度変化しています。これは、年齢からくる衰えをカバーしていることに起因すると考えられます」。オリックス時代から打撃フォームの分析を続けている中京大体育学部長の湯浅景元教授は、こう話す。

湯浅教授の分析によると、イチローを有名にした「振り子打法」から、最初に大きく変化したのがメジャー2年目の2002年。前後に振っていた右足を上へ上げ、上体をねじるようにしたという。背番号が相手投手に見えるほどに体をねじることで、パワフルなメジャーの投手に力負けしないよう変えたとみられ、湯浅教授は「縦振り子打法」と呼ぶ。

さらに続く変化では、明らかに肉体の衰えを補う部分が見られた。メジャーのシーズン最多安打を更新する262安打を放った翌年の05年。今度は上体をねじらず、肩甲骨と鎖骨の周辺の「上肢帯」や筋肉を使って、肩だけをバックネット方向に引いて打つ「上肢帯打法」になった。湯浅教授は、この打法への変化を「本人が意識しているかはわかりません。あくまでフォームによる分析ですが…」と断った上で、動体視力低下への対策だとみる。

最大時にはスイングの際に目線が20センチ近く上下していたが、この打法では10センチ弱にまで縮小した。上体をねじらなくても「上肢帯」を使うことで、打球に伝わる力はほとんど変わらない。映像から解析したイチローのスイング速度は全盛期で時速158キロだったが、新打法に変えても156〜7キロ。日本の1軍クラス選手の平均である145〜150キロをはるかに超えるスピードを維持できていた。

鋭いスイングをキープしながら、天性の優れた動体視力を最大限に生かす。湯浅教授は「彼は『ボールのどの部分にバットを当てれば安打を打てるか』をコントロールしているのです」と説明する。

イチロー選手が『本塁打を狙おうと思えば、打てる』という発言は、ボールのどの部分に当てれば、どのような打球が飛ぶかを予測できているから言えることだと思う。ならば、ボールのどこにバットを当てるかをコントロールしていると見るほうが理にかなう。それだけ動体視力が優れている証拠」と結論づけた。

他の誰よりも「打球をコントロールできる」イチロー。あと通算安打数を伸ばすためには、試合に出続け、打席に多く立つことだけが必要だった。

京都大の小田伸午教授(運動制御論)は「イチローは疲労を蓄積させにくい体の使い方をしている」と見る。打撃の際の体の使い方について、武術で用いられる「送り足」の動きを使っているというのだ。

通常の場合、左打者がスイングして一塁へ走り出すときは、一歩目となる軸足の左足を右足よりも前へ踏み出そうとするが、イチローは左足を右足のそばへ素早く寄せて、右足の方を大きく前へ踏み出すという。これだと股(こ)関節に無理な負担がかからないので、けがの防止になり、体に余分な力が加わらない。小田教授は「力を抜くというのは、力を入れないのではなく、無駄な力を省くということ。体に無駄な力を入れない分だけ、意識もバットに集中することができる」と効果を話す。

肉体的にリラックスした状態を保ち、シーズンを通して巧みなバット裁きを披露し続けるイチロー。次回はその脳の働きについて調べてみる。