久しぶりに髪を切りにいってびっくり

ここに来てから、髪のことに関してはなんにもいいことなんてなかった。田舎だもんなぁ、仕方がないよなぁと言い聞かせても、鏡に映る自分の姿を見るたびに、「チェッ」という気分にさせられていた。

それがいつだったか、勇気を振り絞って、とにかく店の作りは50年代、場所も冴えないし、でも数人の人から「あそこがベスト」と聞いた「この町の老舗」と言われるサロンへ出かけてみたら、これがびっくりの結果で、お店のスタッフは皆かなり腕のいいスタイリスト揃いらしくお店は見かけによらず大繁盛。確かに切り方もとても丁寧で、仕上がりも悪くない。とりあえずなんとか自分が「いいんじゃないの」と思えるレベルのサービスを受けられたので、それ以来その店に通っていたのだが。

昨日久々に出かけてみて、驚いたの何のって。

店の中に人がいない〜〜〜〜〜。

一瞬にして「なにかあったの?」と聞きたくなる状況。

でも、聞く前に察しがついた。私は年末に見た新聞の広告を思い出していた。それは、コートランドに新しいヘアサロンがオープンするという告知だったのだが、そこにお店で働くことになるスタイリスト全員の顔写真が載せてあって、その半分以上に私は見覚えがあったのだ。というか、実際私が髪を切ってもらっていた人の顔がそこにあった。最初だから「ほう。あの店は最近オーナーが変わったと聞いていたし、なるほど、事業を拡大して新しい雰囲気の店を作ったんだな」と思った。オープンした当初からのオーナーカップルというのはかなりの高齢で、それで最近若いカップルが店の権利を買い取ったばかりと聞いていた。でも実のところは、そうではなさそう。

その新聞に広告の出ていた新しい店はなんともコートランドらしからぬ雰囲気をバンバン醸し出していて、挙句に店の名前はフレンチっぽい男性の名前だった。「都会の最新流行を、ここコートランドで格安で提供します!」みたいな文句が書かれていて、でも具体的に値段は書いていなかった。

そんなことを頭の中で思い出しているうちに私の名前が呼ばれて、席に座る。見たことのない顔の人だった。小声で「なにかあったの?」と聞いてみる。「もしかして、あの新しいサロンと関係あるの?」「そう、去年の11月だったかしら、店の半分の子が辞めてあの店に移ったの。私はその後に来たんだけど」。やっぱり。

自分もそうだが、髪を切りに来る時は「店に来る」というより「あの人に切ってもらいたい」、そういう人の方が断然多いと思う。つまり、この老舗のサロンは、スタイリスト半分のみならず、そこにくっつく莫大な顧客をごっそり全部持っていかれちゃったって訳だ。道理で店の中、ガラガラって訳ね。と、突然、会ったこともない「新しい若いオーナー」の心境を思い、辛くなった。こんなことが待ち受けていると知っていれば、きっとこんな選択をしたりはしなかっただろうに。この店は、年老いたオーナーと運命を共にして、静かに幕を下ろす時を待っていればよかったのだ。

誰もいない店で私の髪を切ってくれたジェシカはとても親切だった。「とても素敵な髪ね」とも言ってくれた。お金を払って帰る時に、いつもいる受付のおばちゃん(妙に意地悪顔なので、笑顔が怖い)が妙に明るく「またね!」と言った。どこで髪を切ってもらおうとも、自分が納得できる仕上がりになれば、私はそれでいい。この場末のサロンでも、都会風の新しい店でも、どちらでもかまわない。

帰ってきてから鏡を見て私の気持ちはすっかり変わった。私も来月からは新しいサロンへ行くべきだと確信した。店を出る時には気が付かなかったがよ〜くみると、なんと右と左の長さが違ってるじゃん…。ごめんねジェシカ、でも現実は厳しいのよ。